第39回(通算69回)大会 研究発表要旨【小中高の部】

中学校と高等学校をつなぐ授業の実践-『平家物語』と『日本外史』の比較読みを通して-
奥山晃(旭川市立永山中学校)

中学生にとって、漢文はとりわけ抵抗感が強い。彼らが抵抗感を持つのは、漢文学習を行う配当時数が少なく、十分な知識が身につけられないことにより、漢文が単なる漢字の羅列に見えてしまい、学習の意義を感じとりにくいことなどが、主な理由となっていよう。そうした状態で高等学校に進学することが生徒の「漢文嫌い」にさらに拍車をかけてしまう恐れがある。
そこで、漢文に対する抵抗感を少しでも緩和させるために、『日本外史』「那須宗高」を教材とした授業実践を行ってみた。『平家物語』「扇の的」は、中学二年生で既習事項であり、予備知識がある。那須与一の活躍が生き生きと描かれた「扇の的」は、中学生にとって強く印象に残る物語の1つである。
本単元は「古文(和文体)と漢文(漢文訓読体)の比べ読みを通して、漢文訓読体の長所を把握する」ことを最大の目標としたい。「漢文訓読体の長所」とは、「端的に表現できるまとまりのよさ」にあろう。それは、歴史書として書かれた『日本外史』と、物語として書かれた『平家物語』という、文体の違いによるものが大きい。生徒にこの違いに気付かせることで、漢文訓読体のもつ意義、併せて和文との違いが感じられるように指導を試みた。古文「那須与一」を漢文「那須宗高」の比較対象として用いることが、中学校と高等学校の漢文学習の橋渡しとなる可能性があることを提案したい。

言語文化「唐詩の世界」の実践報告
佐々木千紘(旭川藤星高等学校)大橋賢一(北海道教育大学旭川校)

学習指導要領の改訂により、「国語総合」から「言語文化」に変わることで、漢文を扱える授業時数が激減し、その影響は漢詩の学習にも及んでいる。時数軽減により、結果的に漢詩の基本事項を「教える」授業に偏り、いきおい漢詩の鑑賞がおろそかになってきている。
本実践では、漢詩鑑賞能力を向上させるべく、李白「静夜思」の翻案作成を通して漢詩の特徴やその魅力について、学習者自身が発見できる力を身に着けられるような授業を展開した。
具体的には、あらかじめ翻案作成に向け、学習者に「春暁」の井伏鱒二による翻案・土岐善麿による翻案・散文調の教科書対応学習課題集掲載の現代語訳を比較検討させ、その長所・短所をまとめさせることで、翻案作成の基本を身につけさせた。その上で、李白「静夜思」を用い生徒自身に翻案をさせた。本発表では、学習者が翻案作成を通して漢詩の良さや作者の作詩の技術の高さに気づくことのできる授業を提案し、漢詩の鑑賞能力を向上させるための一方法を示してみたい。

ユニバーサルデザインに留意した漢文導入授業の実践―「朝三暮四」を用いて―
須賀大陽(京都府立京都八幡高等学校)

本発表では漢字表記等に苦手意識をもつ生徒への漢文指導の実際として、1年次の「言語文化」の漢文教育の導入、及び「朝三暮四」(『列子』)の実践を中心に報告を行う。本校の生徒は例年、常用漢字が十分に身についていないこともあり、漢文領域はつまずきを覚える点が特に多い。こうした生徒に対して、指導要領の指導事項に基づいた授業をどのように構想するべきか、私見を提示したい。具体的には、生徒は多様な「特性」を抱えているため、漢文導入授業にあたってはユニバーサルデザインに留意しつつ、「訓読の決まり」の理解を深めさせている。さらに、習得させた「訓読の決まり」を活用して、「朝三暮四」を読解させる。こうした実践報告をとおして、漢文教材の教育的価値についても考えたい。加えて、授業中での生徒のつまずきや、授業をとおした考えの変化についても報告する。

漢文文法論とサブテキストの提案
薄井俊二(埼玉大学名誉教授)鹿島脩太(千葉大学大学院)

現在日本では、中学高校で漢文を学ぶが、文法についてどの程度教えておくかについては、教科書でもまちまちであり、おそらく現場の先生方もまちまちではないか。また語順などの文法論をどう説明するかについても、実は教科書によってまちまちであり、文部科学省も一定の基準などは示していない。しかし、英語という外国語を学ぶにあたって、ある程度文法について共通認識を得ておく必要があるように、中国古典文語文である漢文を学ぶにあたっても、ある程度漢文の文法をおさえておくことは有効ではないかと考える。
そこで、今回の発表では、先ず「漢文の文法説」の「構文論」について私論を提示して、問題提起をした上で、それをおさえた上での初学者向けのサブテキストについて、提案をしたい。
また、これらの理論に基づく教育実践の試みについても、可能な限りで報告したい。

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